夏休みの大渋滞を避けて、前日深夜に鹿留川のほとりに移動しました。午前3時、空を見上げると見事な天の川です。こんなに綺麗な星空を見るのは久しぶりだなぁと感動していたら、一筋の光が! おお、流れ星じゃないですか。そういやペルセウス座流星群のシーズンなんですね。ポカンとしていて、お祈りごとするの忘れちゃいました。でも、良いことがありそうな予感。
夜明けと共に釣り開始です。最初は鹿留林道の虹の木橋のさらに上流部に入ってみました。朝マヅメとあって活発にフライを追ってくるのがよく見えます。でも…手のひらサイズばかり。彼らが咥えきれないような12番のカディスパターンを使っても、果敢にアタックしてきて、合わせと共に何匹か後方に飛ばしてしまいました。
9時を堺に支流の大沢に移動することに。こちらは細い藪沢なので、6ftのショートロッドの出番です。リーダーとティペット合わせて10ftちょいの短めのシステムで、小さい落ち込みをピンポイントで狙っていく…。釣れるには釣れるんですが、こちらもチビちゃん達のオンパレード。何よりも蜘蛛の巣が多くて、そのお掃除にいたずらに時間がとられます。
集合時間の12時が近づき、ここが午前の最後のポイントかなぁという鬱蒼とした木のトンネル。そこに小さな淵があって、良さげな感じです。ただし、しゃがんだままキャストしないと、すぐに周囲の枝葉にフライが取られそう…。14番のピーパラアントを岩陰から静かに流してみること5〜6投。これで出なかったら、竿を畳んで上がろうかと考えていた矢先のことです。
──底から、ユラっと黄色い魚体が浮かんできました。イワナだっ、でかっ。そいつは淵尻でフライを吸い込みました。瞬間的に合わせるとググっという手応え。首尾よくいったと思いきや、何たることか、上の枝にラインが引っかかってしまった!ここはテンションを緩めまいと、竿を持ったまま自ら3〜4m後方に引き下がります。枝から強引にラインを引き剥がそうとしたのが、まずかったか…。
毛鉤にかかったイワナが、やや前方の“空間”にぶら下がっているじゃないですか! ラインを引っ張った結果、枝を支点に魚体を引き上げる形となり、今、イワナとの間には枝に絡んだ7xのティペットがあるだけなのです。逃れようと暴れるそのテンションを枝が適度にたわんで吸収しているという状況。でも、もはや限界か。
何が起きているか理解したワタクシはといえば、咄嗟にロッドを足元に置いてイワナにまっしぐら。冷静に考えればネットで掬えばよかったのですが、その時は何を思ったか両手で掴みかかったのです。まるでドジョウすくいのようにヌルっと両手から抜け出した刹那、アイの部分からティペットが切れてイワナがどさっと落ちました。でも、そこはまだ岩場。体をくねらせるイワナの腹部が金色に光って見えました。ダイビングするかのように突進し、両手で押さえ込もうとした時、大きなヒレの感触を手の内に残して、ヤツは流の中に消えて行ってしまった…。
ザッツオール。全身から力が抜け、その場にへなへなと座り込むことしかできませんでした。こんな状況下ほど、あてにならないことを承知の上で申し上げると、ゆうに27cmはあったような…。一瞬、目が合ったように感じた時のいかつい表情と、高さのある立派な体躯が脳裏に焼き付きました。
◇ ◇ ◇
当然のことながらショックを引きずり、午後に移動した柄杓流川の中流域で釣り始めた時もテンションが上がりません。追い打ちをかけるように気温がぐんぐん上がって、手元の温度計は39℃に達する勢いです。
あまりにも悲壮感を漂わせていたせいで周囲のヤマメの同情をかったのでしょうか…。そこからは、ものの200mも進まぬ間に不思議なぐらいにドライで釣れたのです。20cmに届かない放流モノではありますが、テンポよく6匹。やっとのこと生気を取り戻すに従って、先の出来事が白昼夢にも感じられた夏の1日でした。