4月5日、都留方面に釣りに行ってきました。午前は鹿留川支流の大沢。雪崩によって林道が途中で塞がれていたので、これまで竿の出したことのない下流部が中心です。この日もフライではなく、朝からテンカラ一本勝負。
小さな落ち込みに毛鉤を打ちつつ釣り上がっても見事に反応なし。イワナを期待したものの、まだ動き出していないのか…。振り出しに戻って、橋下のプールで何とかチビヤマメを1匹。水まだ冷たい谷川より、陽当たりよい水域の方が有利なんだろうか!?
その場から下流方向に目をやると、両サイドを護岸コンクリに固められ、所々に小堰堤もあるという人工構造物満載の渓相に一変しています。それでも、上流から押し流されてきた岩がそこかしこに滞留し、水温も多少ぬるんでいるので、もしかしたら魚溜まりになってたりして…。ただ、入渓点が橋近くの1カ所しか見当たりません。釣り上がりをベースとするなら、そこから一旦は川沿いを下って、しばし時間をおいてから始めるしかないようです。ま、やってみるとするか。
──それは、100mほど歩いた辺りだったでしょうか。突然、目の前を小さな黒い塊が走りました。んっ、猫か?? 右岸に寄せ集まった岩々の中に静止したそれを凝視してみると、両耳がピンと伸びたお姿が。何と黒ウサギじゃないですか。か、かわいい!
竿を置いて、近づいていくと先方は恐怖を感じたのか逃げ惑っています。近くにキャンプ場があるので、そこで飼われているものなのかもしれません。でも、人慣れせず、オドオドした様子からすると、野ウサギなのか。
さらに距離を縮めていくに従い、1つながりの岩場の隅に追いやるような構図になってしまいました。行き場を失い、水に飛び込んで逃げるかと思いきや、まさに脱兎のごとくという表現がピッタリの勢いで私の足元をくぐり抜け、上流方面へ。そうだ、思い出しましたよ。ウサギって、水にぬれるのを極端に嫌う生き物なんだった。
しかし、駆け抜けた先とて、20mも行くと陸地は途絶え川面が待ち構えます。片側が急な護岸コンクリ斜面となっている都合上、大袈裟に言えば、小さな無人島にウサギと私だけというシチュエーションなのです。
そやつの身の上を慮ると、何かの拍子に護岸を転げ落ちてしまい、たどり着いたのは水に囲まれてエサもない孤立した岩場。さぞかし途方に暮れていたことでしょう。いったい、いつからのことなのか。これは、どうにかして助け出さねばなりません。
今一度、近づいて捕獲を試みます。PKに臨むゴールキーパーのような格好でじわじわと接近すると…逃げ場を失ったことを悟ったのか、今度は突然、顔を岩と岩の隙間に突っ込みはじめました。頭隠して何とやら。隠れたつもりなの? ちょっと滑稽にも映りましたが、これをチャンスと、しっかり捕まえさせて頂きます。
意外とずっしり。猫より重いかも。そこから入渓した場所まではやや遠いので、護岸の上をめがけて放り投げる作戦を敢行することにしました。空中で体制を整える運動神経ぐらいは持ちあわせているのじゃないかと。体の前で2〜3度反動をつけ、せーのーでっと。ぎりぎり護岸上の縁に着地させることができ万事成功。ふぅ。
それにしても、何でこんな場所でウサギに遭遇したんでしょ。復活祭を前にやってきたイースターバニー? それとも、不思議の国に導いてくれようとした道先案内? いずれにせよ、吉兆に違いないと身勝手なことを考えて、再び竿を手にしたのでありました。
──さて、肝心の釣りの方はその後、どうだったかというと…。アタリすら感じられず、場所を変えた午後も含めて、まったくもって釣果にありつけませんでした。ふと思えば、テンカラ仕掛けの先に結んでいたのは、GRHE< Gold-Ribbed Hare’s Ear >もしくはMSC< Mayfly, Stonefly, Caddis >。つまりは、ウサギの耳の毛をダビングしたニンフだったのであります。ひょっとして、これが何か災いしていたのでしょうか!?