落ち込みに続くプールには、2本の流れの筋。その間にできた緩流帯にエルクヘアカディスを落とすと、下から黒い影が浮上してきて躊躇なく吸い込みました。すかさず合わせると小気味よい引きです。やっと釣れた! 朝から極小ヤマメばかりだったので、そこそこのサイズを思わせる竿のしなりに安堵しつつ、ここでバラしちゃいかんと気を引き締めます。
背から外したランディングネットを左手で握り、一方の右手で竿を倒して手元に引き寄せる。いつもだと、ここでヤマメ特有のローリングで抵抗されるんだけど、なんか違う感じ。もしかするとイワナだろうか? 水面に姿を現した魚体を慎重にすくってみると…。なんじゃこりゃ? ウグイ!? ──鶴川に出かけた時の出来事です。
ぬか喜びってやつでした。そうだった。この川にはヤマメ以外の“外道”もいるんだった。いや、外道なんて言い方は失礼か。一帯の生態系を構成する渓魚であり、それをドライフライで釣るなんて、立派なフライフィッシングじゃありませんか。一応、メジャーゲージに入れてみると23~24cmってとこ。とはいえ、鮮やかなパーマークを期待していただけに、ウロコをまとった魚体を目にした失望感は拭えません。
この日は(というか、この日も)午前から、かなりの距離を歩いたにも関わらず、納得いく釣果に巡り逢えずにいました。やっと掛かったと思えば片手に収まるサイズだし、そこそこの大きさを感じるやつには鉤を外されてばかり。終盤にやっと帳尻合わせができたかと思ったら、先のウ~さんって展開でトドメを刺されました。
納竿予定時刻が迫っていたので、潔く諦めて集合場所へと向かいます。30分ほど歩いて午後のスタートポイントまで戻ると、この日一緒に出かけた2人が既に川を上って待っておりました。
到着早々、事の顛末を話そうとした矢先、「尺を釣っちゃったよ」と切り出してきたのはジーザス。その冷静な口調にピンと来ちゃいました。「それってもしかして“ウ”?」という問いに、彼はただ縦に首を振るのでした。ヒレピン子も、3匹いっちゃったそうな。
往路の車中、ガッシリした夏ヤマメを期待していたはずのメンバー3人。疲れた体をシートに預けて走る帰りの高速道で一日を振り返れば、おちょぼ口でパクパクしてるアウトサイダーの姿ばかりが蘇るのでした。
──それを何とか振り払ってくれたのが、八王子ICを過ぎるあたりから車窓越しに眺めることができた調布の花火大会。開催地との距離を縮めるにつれ、色とりどりの大輪が大きさを増していきます。ひところの熱暑が落ち着き、陽も徐々に短くなってきたタイミングに見る風物詩は、夏が確実に過ぎ去ろうとしており、渓流シーズンも残り僅かであることを実感させるのでした。