炒める、焼く、揚げる、煮る、蒸す、茹でる、燻す…。様々な調理方法をカバーする万能選手が「中華鍋」。HOOK & COOKのメンバーにとっては、釣行先でのランチタイムを堪能するのに欠かせない道具の1つです。応用範囲が広いのに、構造は至ってシンプル。少しくらい乱暴に扱ってもびくともしないし、何よりも豪快に「あおる」スタイルが野趣溢れていて、野外料理にぴったりだと思うのですよ。午前の釣りを終えた後、空き地に即席のキッチンをしつらえた我々は、まずウインナー(多くの場合はプリマハムの香薫)とシシトウを中華鍋でさっと炒めてオードブルとするのが定番となっています。
丸底は不安定で使いにくいという声もあるようですが、その形ゆえのメリットも少なくありません。例えば、投入した具材は自然に中央に寄り、その部分に火力がまんべんなく行き渡ります。揚げ物をする時は、油が必要最小限の量で済むことも見逃せません。「隅っこ」が無いので洗うのも楽ですしね。不安定で置き場所に困るという問題は、輪の形をした受け台(1000円もしない)があれば、五徳やテーブルの上にぐらつかせることなく乗っけられます。まぁ、調理が終わった時点で中身をプレートに盛ってしまえば、鍋はそこらに転がしておいてもいいわけですが。
さて、そんな中華鍋。我々が愛用してるのは、あの「山田工業所」の北京鍋(=片手タイプ)です。ちなみに直径は30cmで、厚さは1.2mm。この時代、プレスマシンでガッチャンコと一発成形するのが主流でありますが、いまだに「打ち出し製法」にこだわっているメーカーとして有名なんですよ。簡単に言うと、平らな鉄板をハンマーで叩きながら徐々に湾曲させてあの形に仕上げていくんです。かつては人手でハンマーを振り下ろしていたようですが、さすがに現在は叩き専用マシンがあるらしい。それでも職人さんが今なお、機械に向かって叩き位置を微調整しながら手間ヒマかけて製造しております。完成までに数千回も叩くことで、軽くて強く、熱伝導性のよい鍋ができるんだとか。鍋肌をじっくり観察すると、所々が微妙に波打っていて、打ち出しによって作られていることを伺わせます。横浜中華街でのシェアもかなり高いそうですよ。
中華料理は「炎の料理」とも言われるぐらいですから、それ相応の火力がほしくなります。そこで活躍してくれるのがスノーピークのギガパワーLIストーブ「剛炎」。公称8500Kcalというハイパワーを誇る大型シングルストーブです。こいつのバルブを全開にしようものなら、ゴオオオォーという凄みのある音と共に、その名に恥じぬ力強い炎が得られます。家のガスコンロなんか足下にも及ばない感じ。高出力の一方で、ガス調整ハンドルの加減では繊細なとろ火もできちゃう点が、なかなかの優れものです。イグナイタ(着火機構)がないので、ユニフレーム(UNIFLAME)の「スティックライターロング」で点火するのが通例。この瞬間は、毎度のことながら、とても緊張するんですよね。本体は折りたたみ式の4本脚で自立させることもできますが、専用のジョイントフレームを使って、キッチンセットの中心となるアイアングリルテーブルにビルトインするのが我々の定番スタイルです。
中華鍋&大火力。この最強の組み合わせで、これまで様々な料理を食べました。あんかけ焼きそば、麻婆豆腐、青椒牛肉絲といった中華だけでなく、ロースカツを揚げたり、タラの芽を天ぷらにしたり…。ん、そういえば「あおり」料理の代名詞とも言えるチャーハンを作ったことがないっすよ。あと、個人的希望としては海鮮おこげとか、エビのチリソースとか天津丼もいいなぁ。蒸篭(セイロ)を持ち出せば、肉まん、蒸し餃子、シューマイ、小籠包、中華おこわ…。うーむ、夢は広がる(中華ばっかりだけど)。料理長、よろしくですよ。
釣りを終えた帰りの車中、ラゲッジスペースに放り込んだ中華鍋とオタマがぶつかり合って、峠道の急カーブを曲がるたびに「カラーン」「コローン」と乾いた金属音を鳴り響かせるのはご愛敬。それは居眠り防止の警告音であるとともに、次回のメニューを早く決めなさいという中華鍋からのメッセージでもあるのです。(by ドングリ)