丹波川釣行の書き込みが続いたところで、この水系とのそもそもの出会いを思い起こしてみました。
それは2009年の春のことです。渓流の解禁後、我々は日川、鹿留川、そして再び日川と、順調に釣行を重ねておりました。そろそろ行き先にマンネリ感を抱いていたこともあり、たまには本流っぽい所にも行ってみない?なんて話が誰ともなく持ち上がったのです。いつものことながら酒場に集まり、ガイドブック片手にあれこれ検討する中、案として浮上したのが桂川。尺オーバーの釣果報告が釣り雑誌にたびたび載っていて、何とも魅惑的だったのですよ。もし先行者がたくさんいるようであれば、鹿留川まで足を伸ばすという逃げ道もあるということで。
そして2009年4月4日(土)がやってきました。
参加者はジーザスとヒレピン子、そんで私の3人。朝から鼻息も荒く、まだ見ぬ大物との格闘シーンを脳裏に思い浮かべながら中央高速に乗ったのです。車中では井上聡さん監修の「やってみよう渓流釣り」のDVDなどを見ながら、それぞれに流し方などを研究していたのでありました(注:運転手の私はちゃんと前を向いていましたよ)。
相模湖までの渋滞を乗り切った後は、スイスイと走ります。目指す大月ICまであと少し。この分なら9時過ぎには河原に立つことができそうだ。うん、よしよし…。こうして順調に事が運んでいた矢先、私は重大な過ちに気付きました。下りるべき大月ICの出口は、ジャンクションを河口湖方面に向かったすぐ先なのですが、あろうことか本線(名古屋方面)まっしぐらにクルマを走らせていたのです。やってもうた。「何か、やっちゃったような気がするんですけど…」という弱々しい私の声に、失望とも落胆とも言えぬヒンヤリとした空気が流れました。この先、勝沼ICまで行くしかないっすよ。
よりによって、シーズン幕開けから2回も日川に行っているので、また同じ場所にとは切り出せない。かといって、大月まで引き返すのもロスが大きい。どうしたもんか思案した挙げ句、苦し紛れにご提案申し上げました。
- 「あ、そうそう。笛吹川本流もいいらしいっすよ。ほら、ガイドブックにも出てたしね」(私)
- 「…」(一同)
- 「これって、渓流の神様のお導きじゃないですかね?」(私)
- 「…」(一同)
- 「しかも、近くに『ほったらかし温泉』っていうのがあって、そこから見える富士山が絶景で」(私)
- …以下略。
強引に進路を決定したものの、土地勘はまるでなし。カーナビを頼りに笛吹川らしき流れには到達したものの、そこはまだ街中でとても竿を出せる感じではありません。「いや、きっと上流に向かえばいい感じになるんだよ」と、根拠なき言い訳と共に北上するルートをひたすら走ります。やがて「もう、そんなに焦らなくていいよ…」という、半ば諦めムードのお言葉を頂戴したのを機にコンビニに立ち寄り、とりあえず休憩。そこで入漁券を売っているという民家を紹介してもらって安心するのも束の間、複雑な路地に迷い込んで、結局はたどり着けないというお粗末な展開が待っておりました。
撤退するのには勇気がいる──。巷で語られる金言は重みがあります。この時の私は猛進することしか頭になく、JR塩山駅あたりから国道411号の「大菩薩ライン」をどんどん上っていくのでした。同乗していたお二人はどのような心境だったのでしょう…。道沿いに川は流れているものの、工事は多いし、渓相的にも釣りって感じじゃない。きっと悪夢のような展開だったに違いありません。自暴自棄とも思えるハンドルさばきが続き、やがて峠の頂上がやってきました。
そこは柳沢峠でした。不思議なことに尾根を越えて下り道になると、辺りの風景が一変したようでした。川も木々も、そこら中が一気に釣りの雰囲気を醸し出し始めたのです。しかも、しばらく行くと「遊漁券取扱所」ののぼりが! 一同、安堵の表情と共に降り立ったのは言うまでもありません。立ち寄ったのは落合SKキャンプ場という所でした。早速、事務所らしき建物に赴いて状況を伺いました。──「魚はいっぱいいるよ。でも、クルマ止める場所を注意しないと、谷底まで真っ逆さまだからね」とのこと。エリアマップを頂戴し、しばし眺めてみます。近くを流れるのが柳沢川。それが下流で一之瀬川と合流して丹波川に名前を変え、さらに奥多摩湖に注いでることが分かりました。よし、とにかく近場でいいから川面に立とう!
先の忠告通りに一帯はV字峡谷となっており、車道から川までは急峻な坂となっています。入渓点を探しながらゆっくり走ってみるものの、ちょうどよい場所がなかなかありません。やっと2台分ほどの駐車スペースの後ろに川までの踏み跡を発見。私の一存で、一方的にその日の釣り場と決めさせていただきました。あまりにも急で険悪な入渓路に、お二人の表情が曇っていたような気もしますが…。既に時刻はお昼に近し。コンビニのレトルトカレーでさっさと昼食を済ませ、ロスした時間を挽回すべく谷に下りたのでありました。クルマに常備しているロープを使って下降したのは、実はこの時が初めてだったような記憶が。
さて、肝心の釣りはどうだったかというと…。大チョンボをやらかした不肖ドングリが一番よい思いをさせて頂きました。形の良いイワナやヤマメが程よく遊んでくれまして。いや、本当に申し訳なかったです。この場を借りてお詫びいたしますよ。この日、ちょっと気になったのはジーザスが「なんか今日のオレ、常に誰かに見つめられていたような気がするんだよね…」と言っていたこと。後日、何の気なしに調べていたら、同水系に「おいらん淵伝説」という言い伝えがあることを知り、皆で背筋をゾゾっとさせたのでありました。
本流釣行という目的とは裏腹に、偶然やってきたフリーストーン。それでも渓相の良さが気に入って、以降は下流の丹波川や泉水谷に別ルートでちょくちょく顔を出すようになったのです。本人は怪我の功名と思っておりますが、メンバー諸氏の見解は違うような…。いずれにせよ、「新天地開拓」のミッションを私に一任してくれる気配はもはや無さそうです。往路や復路での分かれ道、誰となく「指さし確認」する習慣ができたのも、実はこの一件がルーツなのでありました。(by ドングリ)