毎年のことながら、禁漁直後の10月は仕事が何かと立て込んで、ブログを書くちょっとした時間も捻出できずにいます。シーズンオフ恒例の養沢詣でや、思い膨らむハコスチ上野村リベンジなどを早々に実行したいのですが、土日も潰れがちな今日このごろ。釣欲は満たされず悶々とする毎日です。
そんな時にささやかな癒しとなるのは、オフィスへの行き帰りの電車、あるいは就寝前のベッドサイドで、気ままに本を読むこと。ここでカズオ・イシグロの…と言ってみたいものの、実態は相も変わらず山や川に関わるものばかり。心だけでも喧騒を離れたいという思いが働いてしまうのでしょうか。それにしても、タブレット端末で電子書籍(過去に自分でPDF化したものを含む)を読むことが常態化してしまったことの反動か、この所は紙やインクの香りが漂うリアルなアナログ本が恋してしょうがありません。オフィスが本の街・神保町という好ロケーションにあり、仕事の合間に三省堂本店や書泉グランデなんかに行くとウットリしてしまいます。
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この一週間ほどで読んだものといえば…まずは“クマ本”。「熊!に出会った襲われた」と続編の「熊!に出会った襲われた2」(つり人社)はその代表例です。いずれもタイトル通りの内容で、“望まないご対面”をしてしまった人の体験談を中心にまとめ、そこから教訓や心がけを浮き彫りにしようという意図で企画されたもののようですね。
手に取った理由は言わずもがな。自分も今季、通い慣れた川で大物にバッタリと出くわし背筋が凍る思いをしたためです。他の方々はどんなパターンで鉢合わせたのか、その時にどんな行動をとったのかに興味が湧いたのと同時に、少しでも今後の参考になることがあればなぁと考えました。
多くの方が寄稿や取材に協力しており、その中には個人的なお知り合いが何人も含まれていることもあって、まるで疑似体験しているかのように読み進められます。その度に、自分の脳裏にも黒光りする巨体が蘇ってきてゾクゾク。2冊読破する間、睡魔が訪れるなんてことはさすがに一度もありませんでした。
向こうとて人間とは関わりたくないと思っている生物なので、こちらの存在を積極的に知らしめるのが基本策。ただし、人里近い所にまで出没する個体は増えているし、性格やシチュエーションに起因して虫の居所が悪くなることもあって時に牙を剥く。要は、正攻法はあっても正解はなく、先方の生息圏に足を踏み入れる限りは常にリスクと背中合わせであることを忘れてはならないという至極真っ当な結論に落ち着くのであります。
低音と高音、2種類の熊鈴を携行することぐらいはしていましたが、もう少しだけ強化が必要かな。ホイッスルはすぐ手が届くところにセットするだけでなく定期的に吹き鳴らす習慣を付ける。爆竹も数セットはベストのポケットに常備しておいた方がよいかも? 一般人にとっての最後の頼みの綱となるカウンターアソルト、いわゆる熊よけスプレーも必須のような気がしてきました。
まぁ、一番重要なのは熊(本州の場合はツキノワグマ)そのものをきちんと理解するということなんでしょう。四季折々の行動パターンや食性といった生態はもちろんのこと、匂いや鳴き声、足跡、糞、引っ掻き傷、ねぐら…一瞥してそれと分かるものに敏感でなければ。当然、彼らの好物がどこにあるかを把握しておくことも欠くことができません。
相手を知れば付き合い方も見えてくると言葉では腑落ちしても、これがまた難しいんですよね。いつもいく川を例に、どこにどんな植物が分布しているかを思い起こしてみたけれど、曖昧なことこの上なし。せいぜい10m先を眺め、フライを流すレーンばかりにしか意識が向かない狭視野角の釣り人に適正なリスク管理能力は備わらないということかもしれません。──自然に接する姿勢を自省するきっかけとなる2冊でした。
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そして今、読みかけているのが芦澤一洋氏が著した「山女魚里の釣り」(山と渓谷社)。1989年に出版されたものですが、先ごろ文庫本になって書店に並んだので買い求めました。氏が綴る川の風景を、時には山地図なんかも広げながら読み辿ります。釣り紀行という体裁の中に、人の営みと自然の関係を再考させる圧があり、気安く感想を書けるものではありません。ということで、それはまた別の機会にでも。