3月最後の週末、首都圏に吹く風はかなり冷たかったが、天気には恵まれた。気分転換にどこかの川に出かけたい──そう思う一方で、実際には自分の背中を最後に一押しする何かが足りない。結局、土日ともに概ね自宅で過ごすことになった。
とりあえず何をしようか…。まずは、手付かずだった動画の編集を始めてみる。釣行時、周囲の風景や(希に)釣果、そして野外料理の様子などを小型ビデオカメラで撮影することを心がけているが、撮るだけ撮ってPCにためっ放しなのだ。こまめに整理し、見やすい形でまとめておかなくてはいかん。とはいえ、自宅でメインで使っているデスクトップ機が不調なことから、今回はノートPCでの作業となった。はっきり言って不便である。ビデオ編集においてディスプレイの広さと作業効率は比例することをあらためて実感した。直近の素材となる日川釣行(3月5日)の動画を10分ほどに取りまとめるだけで、もうそれ以上作業を続ける気力は続かなかった。早いとこ、メインマシンを修理することにしよう。本格的な動画の整理はそれからだ。
そうして持て余した時間をフライタイイングに充てる。今回は、パターンブックでよく見かけるようなメジャーなものではなく?、自分が昨年のテンカラ釣りでよく使ったタイプを巻いた。多分、何らかの名前はあるのだろうけれど、勉強不足の私は未だにわかってない。分類するならカディスのラーバなのだろうか。ニンフ用フックのTMC2457にウェイトとしてリードワイヤーをぐるぐると巻く。ボディのダビング材はアントロン繊維が混じったラピッドヘア。そんでスカッドバックという名で市販されている細いビニール素材のマテリアルを背に沿わせ、その上からゴールドワイヤーでリビングするといった感じだ。クロカワムシの類? 川エビ系? 小さなイモムシっぽく見えるそれは、本人も何を模しているのかピンときていない。
このパターンを巻くことになったそもそものきっかけは、ずいぶん前にNHK BS-Hiで見た番組にある。フライフィッシングの世界大会をドキュメンタリーで追った内容で、「世界の太公望~静かなる川のチャンピオン」とかいうタイトルだったはず。そこに登場していたチェコだったかスロバキアだったかのチームが、確かこんな感じのニンフフライを使っていたのだ。実釣シーンでは、このニンフや他のウェットフライを計2~3個つけたドロッパーシステムで釣果をあげていた。ラインはそれほど出さず、腕を目一杯伸ばしてミャク釣りのように探るその方法はチェコニンフと呼ばれているようだった。
昨年、テンカラ毛鉤のバリエーションを増やそうとした時に、何となく「使えるかも」と思い出して、タイイングしてみた。単なる思いつきだ。ただし、あくまで記憶に残っているイメージを頼りに巻いたので、実際に放映されたものとはかけ離れているかもしれない。──これを山間部の川で試してみたのは昨年の5月くらいだったろうか。ある程度の重さがあり沈下も速いので、水面直下というよりも水中を探るような使い方になる。場所によっては根がかりも多い。それでも、運良く初回はそこそこの釣果に恵まれた。それで釣ったことがあるからとりあえず結ぶ。使い続けていれば時には釣れる…。単にその繰り返しだったのかもしれないが、いつしかテンカラで相性の良さを感じるヘビロテ毛鉤となったのだった。
我々が釣りに出かける川の選択肢は少なく、いつもだいたい決まっている。新しい釣行先を開拓したい気持ちはあるが、いざとなると土地勘のある場所の1つを選んでしまう。ある意味で保守的なのだ。だからテンカラにせよフライにせよ、そこが勝手知ったる川ならば、過去に実績のある毛鉤にまず手が伸びるに違いない。信頼できる新しい1本を何かの拍子で見つけるまで、とりわけ魚がまだ水面に活発に出てこない時期は、やはりこのイモムシくんの登板頻度が高くなりそうだ。そんな思いを巡らしつつ、結局は、12~16番のサイズとビーズヘッドの有無というバリエーションで20本ほどを巻いた週末だった。