「そうだ。ここだよ、ここ」──。
仕事を何とか工面して実現した9月16日の日川釣行。車を停めた拠点から100メートルほど下ったトロ場の傍らで、思わず独り言が口を突きます。
あれは2年前のちょうど今時分のこと。鼻が曲がりかけた体高のあるアマゴを釣り上げた場所なのです。同行メンバーに自慢しようと一時キープ用のネットに入れた直後、目を離した隙にネットもろとも消え去るという珍事件?が起きた場所でもあるのです。
「白昼夢だったんじゃないの~」という周囲の声に抗うには、もう1度あのサイズを釣るまでよ。毛鉤をひったくるような強烈なアタリよアゲイン! ──いやいや、そんな贅沢申しません。何がしかの釣果を与えてくださいな。冴えない釣りが続いている身としては、少しばかり謙虚さを学んだのでありました。
もしここでイソップ寓話よろしく水神様が現れて、「お前が以前に釣り逃がしたのはこれか?」と尺上の金ぴかアマゴを出してきても、「いいえ、小生が釣ったのはもっと小さく…」と正直に両手で25cmほどを指し示したことでしょう。
そんな話はさておき、ゆったりとした流れが眼前に広がっています。去年の台風の影響で底が少し砂で埋まってしまった気もしますが、それでも“よさ気”な雰囲気。今日はフライではなくテンカラと決め込んでおり、ハリスの先にビーズヘッド付の毛鉤を結んで岩陰に身を寄せます。
第1投──何事も起こらずに手元まで流れてきます。2投、3投しても状況は変わらず。やや力が抜けて、それは10投目を超えたあたりだったでしょうか。バブルラインを抜けた後の沈み石の近くでラインが不自然に止まりました。ん?と思ってアワセをくれた瞬間、水中でギラリと反転する魚影が。
外れたようにも見えましたが、確かな魚信が右手に伝わってきます。この後、「猛烈な抵抗で竿が大きく弧を描き…」なんて展開があれば筋書き通りだったのですが、現実はそんな上手い具合に事が運ぶものではありません。相手をいなすやり取りもないまま姿を現したのは22cmのアマゴくんでありました。
それでも、食生活が充実しているのか丸々とし、ヒレも整ってます。サイズが今ひとつでリベンジは叶わなかったけれど、ここぞと思った場所での釣果は嬉しいもの。ゆっくりと撮影して、流れにお戻り頂きました。
この日、「猛烈な抵抗で竿が…」を味わったのは釣友ブッダくんでした。やや上流に入った彼がテンカラで釣り上げたのは28cm!のアマゴ。その写真を見せてもらうと、まさに鼻が曲がった精悍な顔つきで、体高も見事な大物です。フッキングしてから水面に姿を現すまで、かなりの時間がかかったんだとか。
この時期の日川には、本流域でなくとも、体躯ががっしりとした野性味溢れるアマゴが実在することを確認できたのは大きな成果。2年前に釣れたのも幻影じゃ無かったんだなぁ。よしっ、来シーズンこそは必ずや満足いく1匹を仕留めるぞ!と心に誓った秋の1日でした。