脳裏に焼き付いた1匹

それは昨年9月の土曜、いつものメンバーで山梨県の日川に出かけた時のことです。

テンカラで見慣れた渓相を釣り上がり、民宿の下流域にあるちょっとしたポイントにたどり着いたのは11時ころだったかな。個人的に好きなんですよ、この場所。大きな岩陰に身を潜め、イモムシくん毛鉤を流心脇に何投か振り込んだところ…来ました来ました、「ズンッ」という反応。すかさず竿を立てたところ、思った以上の引きです。

抵抗が収まるのを待って取り込んでみると、精悍な顔つきをしたアマゴ! 体高があり尾びれもピンと張っていて、それはそれは綺麗なプロポーションです。興奮冷めやらぬ間にメジャーを当ててみると25cmちょい。もっと大きく感じただけに少しガッカリもしましたが、それでも満足のサイズですよ。うっしっし。こいつは仲間に見せて自慢すべし!と一時キープ用のネットに入れ、石の重しと共に流れの脇に置いておきました。

いつもならメジャーを当てた状態で何枚か写真を撮るのですが、やや上流に魚影を見つけたのですぐに臨戦態勢。忍び寄ってキャストしてみると、これもあっさりと口を使ってきました。22cmのイワナです。これが時合ってやつ? いつになく釣れちゃうので、キープネットに追加して、もう1つ先のポイントまで歩を進めました。続くときは続くもんです。小さな落ち込みの反転流を流すと、やはり20cmちょいのイワナが果敢に毛鉤を咥えました。

こんなこともあるんだなぁと顔をニヤニヤさせて、キープネットを置いた場所まで戻ってくると…。ん? ──上流側にきびすを返して深呼吸し、もう一度振り返って見る…。げっ! 無いじゃないですか!キープネットが無い!

何が起きたか瞬時には理解できませんでした。流れに持って行かれるほどの場所じゃないはずだったのに…。中の魚が暴れてネットごと川に向かっていったの?

ともかく辺りを探しました。仮にネットが流されたとしたら引っかかるであろう場所をくまなく探りながら下流方面へ。いつもなら躊躇して徒渉しないような場所もお構いなく、どしゃばしゃと入り込む始末。きっとすごい形相してたんだろうなぁ。間もなく、下から釣り上がってきたA村くんと遭遇したので事の顛末を告げたところ、「何も流れてきませんでしたよ~」の一言。うなだれて、また来た道を引き返すことになりました。

昼までの小一時間を捜索に費やしましたが、露と消えた我がネットが再び目に触れることはありませんでした。神隠しか白昼夢か。いや辛うじて動画だけは残っていたので、現実だったことは間違いないんですよ。そうして迎えたランチタイム。あまりに落ち込んでいる私を元気づけようと、メンバーはLadyGagaをクルマから大音量で響かせてくれる気の使いよう。しかし、済んだ秋空とは裏腹に、心の曇りが晴れることはないのでありました。

──これが私の2010年の「September Eleven」。いまだに忘れられぬ1日です。

立派なアマゴ。これは動画から切り出した1コマで、オリジナルには狂喜乱舞の声も記録されてました…
同じく動画に残っていた当日のイワナ。毛鉤を追い食いする姿がしっかりと見えました

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です