「2時間でいいなら、釣ってくれば?」──昨日、4月10日の日曜日のことである。気分転換にドライブしたいという家人。道中で桜が見えて、温泉にでも浸かって帰ってこれるなら申し分ないというので、迷わずに丹波山村を候補に挙げた。奥多摩の先、青梅街道を大菩薩稜に向けて走った途中にある村だ。正直、“下心”はあった。hookandcookのメンバーと幾度も釣行に訪れたことがあり、何カ所かのポイントは頭に入っている。うまく事が運べば…と、クルマに最小限の釣り道具を積み込むことにした。同行人は半ば呆れていたけれど、一通りのドライブを楽しんで道の駅にある「のめこい湯」に到着した時点で、お許しが出たのである。
本当は、前日の土曜日にいつもの仲間との釣行を視野に入れていたのだが、「雨と強風」という天気予報を見て、早々に断念してしまった。結果的に土曜の雨はそれほどでもなかったけど、風は相当に強烈なもの。フライでは太刀打ちできなかったに違いないと、当日は空を見上げながら負け惜しみのように自分に言い聞かせていた。
──さて、腕時計に目をやると午後2時だ。2時間後にピックアップすることを約束し、寸暇の釣りにまっしぐらである。10分ほどクルマを走らせて駐車スペースに止め、手早く身支度。トンネル脇の旧道から丹波川に降り立った。自分で言うのも何だが、こんな時だけは実にテキパキしている。ほぼ1カ月ぶりに瀬音を聴くと、やはり心が弾む。ただし、河原にはところどころに新しい足跡が…。朝早くから何人もの釣り人が通過していったのかもしれない。
ともかく時間に限りがあることだし、釣りを開始する。まずはドライフライから試みることにし、16番のCDCダンを結ぶ。瀬の緩流帯、淵の肩、落ち込みの巻き返し…。怪しそうな場所をトレースしてみるが、反応は一向にない。うーむ。重めのニンフと比べるとキャスティングはしやすいけれど、腕が未熟で、なかなか自然なドリフトができない。気分を変えて、同じサイズのパラシュートに替えてみても状況は同じだ。
試行錯誤しながら200mほど釣り上ると、大きくS字を描いた、やや長めの淵が現れた。渕尻にはいくつかの石が沈んでいて、いかにもな場所だ。いつもよりラインを出して、遠くから探ってみる。第1投、第2投…。5~6投めだったろうか。小さな魚影らしきものが追ってくるのが見えた。1時間ほど無反応が続いて緩みかけていた気分が途端に引き締まった。その後、フライのサイズやパターンを替えてみたけれど、何も起きない。錯覚だったのだろうか…。最後にニンフを試みて、それでダメだったら場所を変えよう。先日巻いたウェイト入りのイモムシ君(カディスラーバ?)にチェンジし、小さめのインジケータも取り付ける。
それはニンフに替えた第1投めだった。着水後、遠目にも視認できるインジケータが1mほどドリフトした先で、わずかに沈んだようだった。軽くアワセを入れると、ささやではあるが魚信を感じた。ロッドを曲げるような抵抗もなく水面に現れたのは、16cmほどの小さなアマゴだった。釣れた! こんなサイズでも、フライを始めて最初にネットに収めることができた魚はやはり嬉しいものだ。写真に収め、感謝の言葉と共に丁重にリリースする。
この1匹で満足感が得られたような気がした。まだ20分ほど余裕があったけれど、さらに上流に向かうのはやめることにする。木々や空を眺めながらゆっくりクルマに戻って、釣り道具を片付けた。予定より早く温泉に戻ると、「その顔は、釣れたんだね」と一言。お見通しであります。