風の谷にて:午前の部

いやはや、すごい風でした。4月16日、総勢3人で山梨県丹波山村の丹波川に出かけた時のことです。この日は朝から空がスカっと晴れ渡っていました。ただし、いつものようにJR中央線のM駅ロータリーで待ち合わせた時、桜の花びらを巻き上げながら吹き付ける風に一抹の不安を覚えました。いや、きっと現地に近づくにつれて穏やかになるに違いない…。

中央高速を上野原ICで下り、鶴川沿いを走って峠越え。さらに小菅村からもう一山抜けて丹波山村へと辿り着きました。道すがら、ジーザスが焼いてきてくれたCDを聴き、ガガの「Born This Way」やブラックボックスの「Strike It Up」でテンションは上り調子です。が、しかーし。ダンサブルなナンバーに合わせて、山の木々も踊り狂っているではないですか。風は弱まる気配を見せず、むしろ仲間でも呼んできたかのように、その力強さを増しているのでありました。

好天に恵まれたけど水温はさほど高くない

林道ゲート近くのスペースにクルマを停め、丹波川本流に降り立ったのは9時近くでした。生地が厚めの長袖シャツの上にベストという出で立ちで問題ないほどの陽気です。でも流れに水温計を入れると8~9℃を指し示し、水温は思ったほど上がっていない様子。そして何よりも、我々の淡い期待は見事に裏切られ、突風は容赦なく谷の筋を吹き抜けていきます。解禁からニンフばかりに頼ってきた私としては、今日こそドライに挑戦してみようと思っていたのにこの風かぁ…。

何はともあれフォルスキャストしてみます。いつもの3番ラインの先にリーダー(9ft)とティペット(6ft)、そしてCDCダンの組み合わせ。オーバーヘッドから繰り出したラインは風に逆らってある程度まで伸びるものの失速。んで、バックキャスト時には追い風に煽られてリーダーシステム一式が自分の顔をめがけて戻ってきた!思わず身をかがめてセーフ。あぶね~。ロッドティップを水面に叩き付けるようにキャストしたり、水面ぎりぎりでサイドキャストしたり、力任せにロールキャストしたり…。いろいろ試行錯誤してみるのですが思うようにコントロールできません。時折、風が弱まるタイミングがあるので、その時を狙えば何とかなるのですが、魚は一向に出そうもないのです。だめじゃこりゃ。

両岸が広く開けたエリアで1時間半ほど粘ってみたものの音沙汰なし。トボトボと上流に向かっていくと、橋下で小さなS字カーブを描く流れの先にヒレピン子の姿が見えました。餌釣り派の彼女は、手慣れた佇まいでポイントを探っています。手応えはどんな感じか聞いてみようか…。歩を進めようとしたその時、彼女がアワセをくれる仕草が見て取れました。おお、竿先がしなっているではありませんか。タモに収まるのを待って近づくと、そこには朱点の綺麗なアマゴちゃんがおりました。朝からアタリが遠かったらしいのですが、数少ないチャンスの1つをものにしたらしいです。お見事!

彼女が釣ったポイントのさらに上流に進ませてもらいました。やや単調な瀬続きの場所ですが、左岸が切り立った地形となっている影響なのか、先の場所より風がいくぶん穏やかに感じられます。今度は、ニンフのルースニングに切り替えての挑戦。例のイモムシくん(カディスラーバ?)を結び、60cmほど離れた位置にインジケータを巻き付けます。風が弱まった瞬間にアップクロスでキャストし、インジケータ先行で流す。何回かやってダメなら少し上流に移動する。この繰り返しで徐々に進んでいくと…。待ちに待ったアタリが! 沈み石の手前あたりでインジケータが消し込まれたんです。竿を煽ると、手応えがありました。よっしゃー、この引きはいいサイズですよ!

1匹めはアマゴ。スレ掛かりだったけど

──最初の1匹はなぜか慌てるんですよね。左手でぎこちなくたぐったラインの先に魚体が光りました。ランディングネットを用意して、こっちに寄ってきた瞬間にすくおうとしたら前のめりにバランスを崩してしまった。それをあざ笑うかのように、お魚くんは背後に疾走。自分もその場でぐるりと回りながら追いかける羽目に…。ドタバタと水しぶきを散らしながら何とかネットに収めたのは、予想に反した22センチのアマゴでした。え?もっと大きく感じたんですけど…。それもそのはず、スレ掛かりでニンフが左脇に刺さってました。釣れたのは確かだけど、ちょっと複雑な心境。やや下流で、ヒレピン子が腹を抱えて笑っていたように感じたのは気のせいだろうか。

岩盤に沿った瀬尻から出てきたイワナちゃん

会心の一匹とは言わないまでも、最初の釣果を得ると余計な力が抜けたような気がします。青い尻尾が鮮やかなトカゲが岩陰に逃げていく、羽化したてと思われるカゲロウが身の回りを漂っている…。それまで目に入らなかった風景に少しは意識が向くようになってきました。50メートルほど上流に移動した先も同じような瀬が続いていましたが、対岸の岩盤沿いにひときわゆっくり流れる筋がありました。そろりと近づいて、慎重にキャスト。思ったところを流しても反応が無く、ピックアップしようとした瞬間、再びアタリです! 慌てるな慌てるな、と自分に言い聞かせつつラインをたぐると、お腹の黄色い魚体が見えてきました。今度はちゃんと口にフッキングしています。それは同じく22センチのイワナでした。いくぶん痩せているものの、尾びれは先のアマゴよりピンと伸びています。デジカメで記録しようとするのですが、なかなか大人しくしてくれません。結局、中途半端にネットに入ったまま、どっちつかずのアングルになってしまいました。釣った直後に写真を撮るのって難しいもんですねぇ。

気が付くと12時30分で、そろそろランチタイム。どうりで空腹なわけですよ。いつもは午前の疲れがどっと出るタイミングなのですが、直前に2匹釣れたことが手伝って、クルマに戻る退渓路も足取りが軽い。我ながら単純なやつだと思っていたところ、坂の最後でこけて左の向こうずねをしたたかに打ちました。とっさに手放したロッドは坂の下へ。有頂天になりかけたことを、涙を浮かべながら反省したのでした。(by ドングリ)

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